発想できるSEの育成

テクノロジストコンサルティング 株式会社

発想できるSEの育成

ビジネスIT問題は、情報サービス業および企業のシステム部門にとって、優秀なSE(システムエンジニア)の絶対数の不足をもたらす。特に、いかにつくるかではなく、何をつくるべきかを発想できるSEの不足は大きな危機といえる。
ところで、発想できるSEはどのように育つのであろうか?

先進的システムに学ぶ
話題の先進的システムには、共通して、できあがるまでの生みの苦しみが感じられる。そして、革新的なシステム発想に敬服させられる。
セブン-イレブン・ジャパンの商流、物流の情報システム、DELのSCMシステム、楽天のECシステム、野村證券の総合オンラインシステム、DHLの国際物流システムなどが、そのようなシステムの事例としてあげられよう。
これらのシステムには、いずれも、「いかにつくるか」だけでなく、「何をつくればよいか」の革新的な目標が、明快に存在している。
システム部門にとって、つくることが重要であった時代から、何をつくるべきかを発想することが重要である時代に、移りつつあるといえる。

発想できるSE
どの企業も計画テーマ、開発テーマを多数抱えて、SEの育成と確保の問題に頭を痛めている。そのSEも一様ではない。システムの計画から開発までの各段階に、次のような技量をもつSEが必要である。

①開発できるSE
・業務設計ができ、プログラム化できる。
・データベース、ネットワーク、Web化等の構造設計ができる。

②マネジメントできるSE
・開発グループ、とりわけ協力会社をマネジメントできる。

③折衝できるSE
・手強い経営者、ユーザーと折衝できる。
・この折衝力により、システム部門の立場、地位の向上を図れる。

④発想できるSE
・現場を見て、見える。また経営者およびユーザーに聞いて、聞ける。
・従来のシステムの置き換えやその延長線上ではない、革新的なシステムの発想、提案ができる。

開発できるSE、マネジメントできるSEの質、量の不足については、専門会社やメーカーの協力を仰ぐことによって対処しているのが、一般企業のシステム部門の現状だろう。
しかし、折衝できるSE、発想できるSEの領域は、経営者、ユーザーとじかに接触する機会が多いこともあり、全面的には外部の協力を仰ぎがたい。
何とか自社内で育成しなければと悶々とするゆえんである。最近、銀行をはじめとする金融機関でも、システム要員を中途採用する動きが活発化しているのは、こんなことも背景であろう。

どうすれば育成できるか
単なるテクニカルSEと違って、システム技術に見識が深く、経営者やユーザーとも会話でき、そして発想できるSE。このような理想的SEを育成するための決まったカリキュラムは、残念ながら見当たらない(※1)。

これまで、いろいろな業界のシステム部門の方々と接する機会を得たが、発想できるSEは、大企業でも1人か 数人しかいないところが多く、「うちには1人もいない」という企業も少なくない。
それでは、どんな人が発想できるSEになりうるのか。
直感的には、次のタイプが、その候補と思われる。
・理科系出身であるが『Business Week』などを読む
・文科系出身であるが『情報処理学会誌』などを読む

発想できるSEになるための近道はない。しかし、いろいろな「場」に参加する、多くの「人」に触れ、盗む。そして、 各種の「業務システム」を経験することから、突然、発想できるSEに変身するのではなかろうか。
SE育成についてよく問われるが、一般的なIT技術研修に加えて次の試みが効果がある。

1つ目は、各種の社内委員会による「場」の提供である。新技術調査委員会、生産性委員会、運用技術委員会、安全対策委員会、国際問題委員会、OA委員会、法的問題委員会……。
これらの多くは、委員を公募制とし、意欲の高い者が参加できる仕組みをとっている。社内各部の人材が集まる「場」で自己を磨けるわけである。外部の専門家(テクノロジスト)をアドバイザーとして活用する、海外視察する等の社外の視点の導入を図る工夫が肝要。

2つ目は、専門職制度である。システムの各分野ごとに、社内外に通用する専門知識をもつ有望な人材を選び、その知識をさらに高めるため、経済的、時間的な支援を行うというもの。当該企業の若手の育成目標にもなる。

3つ目は、情報誌の発行である。現在では、WebでBlogなどで同様のことはできるが、「他人の眼にさらされるのでいい加減な事は書けない」とプレッシャーがかかる紙面での発信をおすすめする。ここに投稿することによりSEは磨かれる。


「新人類」の発想
システムには、いろいろな経験を積まないと発想できない分野と、もう一つ、若くして初めて発想できる分野とがある。インターネットでのWebビジネスは、すでに「新人類」の発想がなくてはならないものとなっている。
この2つは、残念なことに両立しない。これからのシステムのテーマを決めるには、経験を積んだSEに加えて、「新人類」の活用が不可欠である。

(黒岩暎一)


※1 発想できるSEの育成の一助になればと、弊社でとりまとめたシステムコンサルティングガイドブック
企業の経営者との会話の仕方からシステムを発想するための「体」・「技」・「心」の修得の仕方をガイドしている。

テクノロジストコンサルティング株式会社